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それから僕らは、明日を目指す


 その時僕達は、国王方に別れを告げ、マカトニクルへの道を歩んでいた。

 「それで、チョコはこれからどうするつもり?」

 「私は、まだこれからも旅をしたいと思っていますわ」

 「えっと。まだ、仲間達のため、に…?」

 その質問に、彼女は優しく、そして美しく微笑んで答えた。

 「いいえ。誰のためでも無く、自分のために」





 ――チリリリリ…

 
 マカトニクルの発車の汽笛が鳴って、ゆっくり進みだした。

 まるで、初めて故郷を発つ日のようだと少し照れくさくなりながら、

 だんだん加速していく、でも速過ぎるということも無く移りゆく風景を眺めていた。

 「アルバーは、最後の駅まで乗っていくのでしたわね?」

 「うん。チョコは途中で降りるんだっけ?」

 数日前に、この列車で乗り合わせた記憶がよみがえる。

 たまたま帰郷するつもりでマカトニクルに乗ったら、昔の同級生に出くわして。

 “有名な魔女”の彼女は、カールストーン生だった当時のままでいて。

 人伝にしか聞いた事の無かった“伝説の戦”にチョコが加わっていた事を初めて知って。

 彼女の泣き方を、初めて見て。

 「…チョコ、これからは一緒に旅、しない?

  もちろん、君の好きな所へ、何処でも行っていいからさ」

 笑いながら、できるだけ冗談に聴こえるように言ってみる。

 反応は文字通り、半信半疑だったけれど。

 「アルバー、どうしたんですの?

  まるで、もう会えないんじゃないかとでも言うようなニュアンスが

  含まれているようですけれど。

  …そうですわね。それでは、またの機会までに考えておきますわ」

 この返事、もしかして満更でもない?

 …否、僕に駆け引きなんて器用な業、生憎持ち合わせていなかった。

 難しい事を考えるのは、僕には向いていない。

 「また、会えるよね」

 「えぇ、だって同じ国に、それも近隣に住んでいるんですわよ?

  私も年に数回は、両親に会いに帰っていますし」

 確かに、言われてみればそれもそうだ。

 「私が“お祖母様”と呼ばれる前には会えますわ」

 少なくとも、その2歩ぐらい前には会いたいと思ったのが。

 つまり、遅くても来年辺りを。

 「今後の予定なんて、もう有ったりするのかい?」

 「えぇ、一応。次の帰国までに20の都を訪ねるつもりです」

 相変わらず、チョコはタフだ。

 苦笑しながら「本当にそんなことできるのかな?」と言ったら、

 彼女がさも当然とでも云うように、

 「この私に、出来ないことがあるとでも、思いまして?」

 なんて帰ってくるものだから。





 チョコは、それから3つ目の駅で、降りて行った。



                        結

―――
 これで完結しました。
 お暇ならカテゴリの『Then』の最初からご覧下さい。
 こめんとでもかいていただけるとうれしいです。。
 それではw
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大雨洪水警報のち、快晴

 
 その時僕は、雨の音を聴きながらすっかり出来上がった沈黙を

 どう破るべきか、考えていた。

 チョコは墓に向いていて、表情を読み取ることは出来ない。

 「……チョコ、あのさ、こんな所で何なんだけど…」

 彼女の背には、すでに泣いている影は無くなっていた。

 「……何ですの?」

 まだ微かに鼻声で、だけど落ち着いたアルトヴォイスはよく聴こえた。


 「僕は、君のコト、……す、す……スギャッ……」




 あぁ、何てことだ。



 必死に考えた挙句、思いついたのは一世一代の賭けだったのに。

 この時ほど、自分の舌を憎らしいと思ったことはないだろう。




 「アルバー、私も一言、貴方に言いたいことがありましてよ」




 「…えっ?」


 「私は貴方のそういう優しいところ、とても好きですわ」


 そう言って振り返った彼女の笑顔を見た者は、

 誰もがたちまち心奪われゆくだろう。


 特に僕の高鳴る心に、それは絶大な効果を発揮した。

 「私は、こんなに素晴らしい仲間を持てて、幸せ過ぎると

  怒られてしまいますわ」

 …あぁ、結局そういうオチね。…まぁ、でもいっか。

 「ねぇ、アルバー。私、明日ここを発とうと思っていますの」

 「うん、僕も。どうせだから、途中まで一緒のマカトニクルに乗らないかい?」

 「もちろんですわ」





 すでに雨雲は去り、替わりに暖かな光が当たり一面を射していた。



             To be coutinued.

―――
 明日辺り最終話。
 

雨降りしきる、影の中


 その時、墓の前で一通り話し終えたチョコは、まぶたを伏せたまま

 静かに泣いていた。

 彼女の泣く姿なんて、初めて見た。

 「やはりあの時私も、生きるべきでは無かったのですね」


 そう言った目の前の存在が、急に小さく見えた。


 何故だか、むしゃくしゃして。


 「……そうだったのかもね」


 冷たい言葉が、すべり落ちた。


 「ただし、その時は、チョコが逝く時は、僕も一緒だ」


 雨粒に写った自分の姿は、ひどく歪んで見えた。


 そして辺りには、降りしきる雨の音以外、何も聴こえなくなった。





             To be coutinued.


―――
 めっさ短っ!
 残すところ後2羽…違った、2話。
  

遠い記憶の 後ろ姿


 その時、剣の得意だった雅哉は前に現れる敵兵を

 難なく倒していきました。

 私も、雅哉ほどではありませんが、一応それなりと

 言われていましたので、剣術で応戦していました。

 「おぉ、さすがチョコだな」

 「雅哉、よそ見していないで前に集中していなさい」

 「へいへい」

 返事こそ出来たものの、心中穏やかではありませんでした。

 何故か、朝から胸騒ぎがしてしょうがなかったのです。

 幼少の頃より共に育ってきた彼の実力はよく分かっています。

 しかし、私は仮にも魔女です。

 異国のように、空を飛んだり物質を変化させたりすることは

 出来ませんが、術を詠んだり先を見通すことはできます。

 まだ未熟でしたから、先代方のようにはいきませんでしたが。

 えぇ、だからこそこの時は、安心するところもあったのです。

 もうどれだけ経ったか分からなくなる頃、撤退の合図が響きました。

 既に敵も味方も、そんなに居ませんでした。

 「雅哉、お怪我はありませんでしたか?」

 「おかげ様で。つーか、チョコこそボーっとしっぱなしだったな?」

 2人共、疲労は顔に出ていましたが、戦の帰りに声を掛け合うのはいつもの習慣でした。

 これが、今日も生き得た確認だったのです。

 「最始の一杯は美味そうだな。今日はいつになく働いたし?」

 どんなに疲れていても笑って、どんなに苦しくても笑って。

 それで、彼が笑っていることで、周りの雰囲気もいつの間にか優しくなるのです。

 「えぇ、それでは、皆さんをお呼びしなくてはいけませんわ」

 「あぁ、んじゃぁ何処の店にしようか。俺は、昨日通った道沿いのっ…

  んっ……っ」

 「……雅哉っ…」

 それは、一瞬の出来事でした。

 戦場から少し出たところまで差し掛かっていた矢先、

 突然彼の様子が変わったのです。

 同時に、彼の背後の一直線上に弓を持っている生き残った敵が見えました。

 すぐに、敵の方は、息絶えましたが。

 彼は、運悪く、肺の方をやられたようでした。

 とても苦しかったでしょうが、それでもなお、

 彼は優しい微笑みのみを残して、崩れ落ちて、ゆきました。

 私の、目の前で。

 それは、一瞬の出来事でした。






 「それから私は、その時彼がしていた指輪と、失った仲間達の物をはめて

  旅に出ることに、したのです。本当は、これから見るはずだった、

  様々なモノを、見るために、彼らの、目となる、代わり、に」





 ザァー、ザァー―――




 「……チョコ、泣いてるの?」






 激しさを増した雨粒は、私の思い出に、しみたようです。





             To be coutinued.

―――
 チョコの指輪の全貌。
 てか、更新サボってスイマセンでした;;

それぞれの事情


 その時、僕達はやっと辿り着いた市街地で、ある場所に向かって歩みを進めていた。

 「もうそろそろ着くはずだけど…。

  あ、ホラッ」

 目の前に見えたのは、俗にいう“城”を呼ばれる類の建物。




 トントンッ

 「あのスミマセン。王室付きの詩人ですが」

 そうだ。僕は王室付きの、吟遊詩人。

 すんなり通された先は、来賓室の次に豪華な“王室”。

 「失礼します」

 ご大層な扉を開けると、そこには珍しく全員揃った国王一家がこちらを向いていた。

 「あら、やっと着いたのね。皆心配していたんですよ。

  …おかえりなさい。アルバー、チョコ」

 「よく無事に帰った。我が息子と、娘よ」

 「ただいま。父さん、母さん」

 「ただいま帰りました。国王様、お妃様」

 僕の父母、兄弟達はチョコを家族のように思っている。

 勿論、僕だってそう。

 チョコさえ良ければ、いつでも城に住んでくれといわんばかりの、

 特に母さんを、毎回やんわりと操縦している彼女は、やはり凄い。

 …まさか、魔法でも使っているんじゃないだろうか。

 「…それで、早速仕事の話になるんだが」

 「それでしたら、こちらに報告書がございますわ」

 この国は、代々魔女を政治に関らせることで平和を保ってきた。

 さすがに、占いで国の情勢を決めるわけにはいかないが、

 それなりに風水とか、魔女の教えには従っている。

 特に今世紀の魔女はとても優秀で有名だ。

 まぁ、当の本人にしてみればあまり興味が無いと

 いった感じな訳であるが…。

 そういえば、何故彼女は帰ってきたんだ?

 魔女としての仕事は、そんなに頻繁じゃなくてもいい。

 だったら、何故?

 「…という事ですから、アルバー、少々お待ち頂けますか?」

 突然チョコの声が聞こえたかと思うと、王と妃、そしてチョコが

 部屋を移す姿が目に入った。

 どうやら僕が一人で思考の迷路に陥った間に、置いてきぼりを

 くらったらしい。

 ――

 だいたい2、3時間経った頃、やっと3人が部屋に戻ってきた。

 この分だと、どうせ仕事から旅の話にすり替わったのだろう。 

 「お待たせしました。それでは、私はこの辺りで失礼させて頂きますわ」

 「もう少しゆっくりしていけばいいじゃないか」

 「そうですよ。王の言う通り、もうここはチョコの家なんですから」

 「いいえ、王様、お妃様。私これから行かなければならない所が

  ありますの」

 チョコの両親は健在だ。

 なら、彼女も僕同様、帰郷したのか?

 「そうですか、それは残念ですが…。…アルバー、チョコを

  送っていってあげなさい」

 「うん、そうするよ。母さん」

 ――

 僕はチョコを家まで送るつもりだった。

 「もうこの辺りでよろしいですわよ?」

 「ねぇ、チョコ。この道って確か君の家の方角ではないよね?」

 「そうですが?」

 だったら、何処へ行くつもりなんだろう?

 急に僕の好奇心が疼いた。

 「僕も着いていって良いかい?」

 「えぇ、別にかまいませんが…。きっと、あなたにはつまらないですわ」

 彼女は、左手を右手で包み込んだ。






 今日は雨が、よく降るなぁ。




             To be coutinued.

―――
 そろそろ後半へ。

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